勝手にレペゼンして強がってはいけない
少し前に会社の部署に入ってきた女性のウェルカムランチに行ったときの話である。
チーム内で自己紹介その他雑談をしている最中、猫の雑種が長生きだという話になり、その女性が私に「じゃあ(マークニズム)さんも長生きですよね」と冗談を振ってきた。
私は父親が外国人なのでいわゆるハーフ(hafu)なのだが、それをペットの雑種と同列に扱う発言に上司が反応。「それはコンプラ的にダメですよ」とその場でひと言注意して、別の話題に移った。なにしろ我々はコンプライアンスの部署なものでその辺は敏感なのだ。
ランチ後、上司が私だけをコーヒー屋に誘い、道すがら「あれ大丈夫でした? 怒ってませんか?」と聞いてきた。
一瞬なんのことかピンと来ないくらい「雑種」発言は別に気にならなかったのだが、上司はかなり問題視していたようだ。
「あれはダメですよね」「人間のハーフを猫の雑種と同じように言うなんてありえない」「あとで呼び出して注意しておきます」と息巻くものだから、私は「いや、よく言われたことあるしそんな気にしてないですよ(笑)」「話の成り行き上、場を盛り上げようと話を振っただけですよ」と雑種女性を擁護した。実際、彼女には悪気など微塵もなかったと思う。
しかし上司は「いやいや、あれはダメですよ」「他人の出自を笑いの種にするなんてありえない」と続ける。
私自身あまり気にしていないのだしちょっと過剰反応では……、と思いかけたとき、その上司の妻が外国人であることを思い出した。彼の息子もハーフなのだ。
そういえば同席していた別のオーストラリア人上司の妻は日本人。彼のお子さんもハーフだ。
自分の子供を雑種呼ばわりされたら親としては腹が立つだろう。それを私は「いや俺は気にしてないからいいっすよ」と自分本位に軽視してしまった。
この話は「"自分は良くても"他の人がダメかもしれないから気をつけよう」だけでは終わらない。
こういうのは大抵の場合"自分も良くない"のだ。良くないのに良いことにしてしまっているのだ。そしてそれは大抵、強がりから来るものなのだ。
高校生のとき、同じ部活のやつに「つまり雑種でしょ?」と無意味にしつこく貶されて、あとで悔しくて泣いちゃったことがあった。
じつは嫌なはずのことを良しとしてしまうのは、その場を収めるための臆病な気遣いかもしれないけど、多くは「俺はそのくらいなんとも思わないぞ」という強がりがあると思う。そして、それはひいては「俺は他の〇〇(自分の属性)とは違うんだぞ」「他の〇〇よりおおらかで気丈な俺を認めてくれ」「そっちの仲間に入れてくれ」という歪んだ媚びに発展するおそれを内包する。そんなの牢名主じゃないか。というか名誉純血? アンクルトムになんかなりたくないぞ。
このことで思い出したのが、以下に引用する瀧波ユカリさんのツイッターの投稿群。ちょっとそのまま貼ります。
20代の頃「日本は男尊女卑なんかじゃないよな?お前どう思う?」って男性に聞かれ「私は特に困ってることない」と答えた。彼はすごく嬉しそうになり「そういうこと言う女とお前は違うもんな」と言った。私はなんだか誇らしい気持ちになった。「私は困ってない」って言うことと快感が繋がった瞬間だった
— 瀧波ユカリ (@takinamiyukari) July 30, 2018
「私がこの社会でうまくやれているのは、私自身にそう扱われるだけの資質と強さがあるからだ」って漠然と思い込んだ。今思うとあの頃は、「そういうこと言う女とお前は違うもんな」って思ってもらいたいから、すごく強いふりをしていた。言いたいことたくさん飲み込んだ。それは彼らの利になった。
— 瀧波ユカリ (@takinamiyukari) July 30, 2018
社会に出始めたばかりの自分にとって、それがどんな形であっても「認めてもらえる」というのはすごく魅力的なことだった。認めてもらうために強がっていたらあっという間に「現状に文句ばかり言ってないで、努力することに目を向ければいいのに、私みたいに」くらいに他人を見下す自分ができあがった。
— 瀧波ユカリ (@takinamiyukari) July 30, 2018
「お前はあの手の奴らとは違うもんな」っていう承認が、蜜の味をした毒だって気が付いたのはいつからだったろう。承認という誘惑に負けていろんなものを足蹴にしてきたって認める過程は長くて苦しいものだったけど、そうして悔い改めて今の私になれてよかったと思ってる。
— 瀧波ユカリ (@takinamiyukari) July 30, 2018
でも人間ひとりの考え方ってひとつじゃなくて、そうやって社会に実際にある問題を見ないようにする時もあれば、すごくしっかり見ていて腹を立てることもあった。その頃の私と今の私はまったくの別人じゃない。自分の中の矛盾に気が付いて、長い時間をかけて整理をした。今も整理の途中かもしれない。
— 瀧波ユカリ (@takinamiyukari) July 30, 2018
今の今まで瀧波ユカリさんを何故か峰なゆかと混同していたことに気づいた。ごめんなさい。
言うまでもなく日本は今でもキモい男尊女卑社会だが、男たちはそれを認めることを極端に嫌がる。そんな男社会に迎合して(当人は「強か」だと思っているけど)歪んだ強がりを抱えて生きていくのはきつい。もちろんそういうコミュニティでその人が生きていくために仕方なく選んだ道かもしれないけど……。
そういえば昔いじめられていたことについて、2-3年前に「あの頃のおれが弱かったから悪いんや」みたいな強がりを語って気持ちよくなってたことを思い出した。いじめるやつが悪いに決まってんだろ。
というわけで弱き者たちよ、勝手に弱者の立場を代表して強がるな。それが強者を増長させ、また他の弱者が迷惑を被るかもしれないんだぞ。
「おれはおれの立場を弱者だとなんか思っていないぞ! 勝手に弱者認定するな」
じゃないんだよ。お前だけの話なんかしてないんだよ。お前は自分のこと強いと思い込んでてもいいけど、同じ属性の人間のハードルを勝手に上げるなよ。
「おれの知り合いのホモは自分で自分のことホモって言ってるもん」
「うちの嫁は家事育児ぜんぶやるの苦じゃないって言ってるもん」
「乙武は自分の障害を笑いの種にできてるじゃん」
こういうウンコ野郎どもに言い訳を与えるな!
多数派に迎合するな! 媚びるな! 卑屈になるな!!!
嫌なもんは嫌だと伝えろ! 戦え!!!
というわけで蓮舫のせいで肩身の狭い思いをしている全国の二重国籍者という弱者のために二重国籍Tシャツをsuzuriにて販売しております。税金払ってるんだから堂々と歩きましょう。